2006年07月18日

国際問題徒然No.26・北朝鮮の弾道ミサイル発射(06年7月17日)

日本時間16日未明に採択された安保理決議1695は、安保理15カ国の全会一致で採択され、弾道ミサイルの発射について北朝鮮を非難することで足並みをそろえた。今回の決議の内容と決議採択までの経緯については様々な意見が飛び交っているが、決議は、北朝鮮の問題とその解決へ向けての道程中の一場面に過ぎないことを忘れるべきでない。大事なことは、北朝鮮に関しての日本の国益最大化に、この決議をどう生かすかである。

1. 北朝鮮に関する日本の国益とは?
 北朝鮮に関する日本の国益とは、北朝鮮が日本、極東及び国際社会の安全を脅かす存在でなくなることである。現状に即して言えば、北朝鮮が核及びミサイル開発を止め、拉致問題を解決し日本と安定的な関係を結ぶことが、北朝鮮が脅威でなくなるということである。
 これを達成するためには、日本一国では不可能である。拉致問題の解決でさえ困難なことは現状に至る経緯を見れば分かる。
 北朝鮮の核及びミサイル開発が地域と国際の安全に対する脅威であることは、六カ国協議に参加する全ての国が共有している。問題は、この理解への反応の仕方である。中国、韓国は、北朝鮮の核及びミサイル開発以上に同国体制の崩壊を恐れている。ロシアにとって北朝鮮の姿勢は不快であるが、同国を脅威に感じる度合いは小さい。唯一、世界の核管理を目指す米国だけは、北朝鮮の核及びミサイルに対して厳しい。
 このような中、日本は北朝鮮の核及びミサイル問題だけでなく、拉致問題の解決を目指さなければならない。それが日朝正常化への前提だからである。しかし、今年に入るまで、拉致問題は日・北朝鮮間の問題に過ぎなかった。それどころか、中国や韓国は、拉致問題進展のための日本政府や拉致被害者家族の会の動きを、頑なな北朝鮮を益々頑なにするものと批判をしたりした。
 それが、今年になって風向きが変わった。米国の金融制裁で北朝鮮の苦境と対米反発が強まった。米国は、イラクその他で軍事力使用のオプションが使えない中、金融制裁に加え、拉致問題を含む北朝鮮の人権問題に焦点を当て同国への圧力を強め始めた。拉致問題を国際問題として動かす機運が生まれたのである。

2. 安保理決議1695の意味
 以上のような状況下、北朝鮮は7発の弾道ミサイルを日本海に撃ち込んだ。欧米のメディアも取り上げる世界的問題である。日本がすぐさま安保理に持ち込んだことで、これは国際社会の脅威だという認識が安保理メンバーと国際メディアの間に共有された。ロシアのプーチン大統領は感情的になるべきでないとコメントしたが、当初の日米案が制裁も含むものであったので、安保理における脅威の大きさに対する相場感があがった。
 中国も韓国もこれを脅威でないとは言えない。中国には六カ国協議の議長と言う面子もある。他方で、両国にしてみれば、制裁を含む厳しい決議案が可決され、北朝鮮の更なる窮乏と暴発への道が開かれるのは、自らの安全上の問題である。制裁を含む決議案だけは阻止しなければならない。プーチン大統領のコメントも、この立場を共有した上でのものかもしれない。
 結果として、制裁を含まない北朝鮮非難決議案になったが、北朝鮮の核及びミサイル開発が極東地域と国際社会への脅威であるという認識は国際社会全体に共有された。北朝鮮は、採択45分後に安保理決議1695を拒否したが、国際社会の目が厳しくなるのは確実である。
 特に欧州・北米・オセアニア諸国は、核及びミサイル開発問題のみならず、北朝鮮の不法行為(麻薬密売、偽ドル作り、外交特権を利用した密輸、拉致問題を含む人権侵害)のことを知悉しており、これからの北朝鮮の動きには目を光らすことになろう。

3. 北朝鮮包囲網の強化へ向けて
 北朝鮮が、国際社会の厳しい目にも拘わらず、ミサイル発射や地下核実験を行なう可能性は考えておく必要がある。その場合は、安保理決議による制裁が視野に入ってくるが、そのような決議案には、中露は反対するかもしれない。その時、中露が北朝鮮を本気で押さえにかからざるを得ないか、反対できないような、この問題に関する国際環境をつくっておくことが必要である。
 そのためには、第一に意味のある追加制裁を、時期を見計らいながら日本自身が行なっていくことが重要である。一年前までは、日本単独の制裁は効果なく、北朝鮮のみならず、韓国、中国の反発を招いたであろう。だが、韓国の太陽政策や中国の支援が、北朝鮮の穏健化に役に立っていないことが明らかになった今、反発をあらわにしても、日本への政治的圧力にはなりにくい(他の諸国の賛同を得にくい)。また、米国の金融制裁が効果を見せており、時期と分野を見定めれば効果的な制裁も可能になるであろう。
 第二に、北朝鮮の核及びミサイル開発問題と拉致問題に関して具体的な協力・連携体制を欧州・北米・オセアニア諸国との間に築くことである。自主的な制裁まではいかないにしても、安保理決議1695が加盟国に求めた事項を実効性あるものにする情報交換を確実にし、経済協力や人道支援の自制の確約を得ることが重要である。G8の議長声明も意味あるが、これも実質的なものにする努力が求められる。
 第三は、中国、ロシアに北朝鮮への働きかけを強めさせるための仕組みを考えることである。米国は中国をおだてながら、北朝鮮に働きかけさせることは出来るであろうが、結果は決議採択前の中国の働きかけ程度かもしれない。今次安保理決議採択では、英仏が日米、中露間の仲介役を務めた。英仏を巻き込むべきである。英仏から中露の対北朝鮮働きかけを促すようにすべきである。
 最後に、北朝鮮には、危機創出の報酬はないことを交渉や働きかけの際に姿勢として見せるべきことを付言したい。中露の働きかけ、英仏の間接的働きかけにおいても然りであろう。

追伸:7月17日付け日経新聞朝刊一面「危機回避へ薄氷の一歩」という解説記事は、今次問題の国際社会での取り扱い振りを良く表していて、良いと思います。

(国際問題徒然No.26・了)

(仮称)九州筑紫21世紀国際問題研究会
宮原信孝

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