2006年08月16日
カブール便り(その17)2004年5月7日
2004年春、アフガニスタン支援ベルリン会議、アフガニスタン開発フォーラムが開催され、同国復興へ向けての国際社会の支援が再確認された。しかし、開発も法の支配確立も遅々として進まないのが現実であった。そんな中で書いたカブール便り(その17)である。
K様、
もう5月になったというのにしばらくの間カブール便りを書けませんでした。ご無沙汰をお詫び申し上げます。
カブールの街では、4月後半以来薔薇の花が咲き誇っています。大使館敷地内でも、私の宿舎の庭でも赤やピンクが目を引きます。今朝、今の窓を開けるとウグイスと思われる鳥の鳴き声も聞こえてきました。カブールはまだ春のようです。
この春、アフガニスタンは、2年前のアフガニスタン復興支援東京会議に続いて再度、その行く末に対する国際社会からの支援の約束を得ました。ベルリンで行われたアフガニスタン支援国際会議では三年間で82億ドルの支援の約束が為されました。これに対してアフガニスタン政府はワークプランという名の改革と開発のための目標とその施策を発表し、これを実施する旨国際社会に約束しました。これを受けて4月の半ば過ぎにはカブールにおいてアフガン開発フォーラム(ADF)という会議が開催され、アフガニスタンの政治過程を支える復興・開発、治安、社会の全ての分野について、アフガニスタン政府が具体的施策を発表しました。国際社会は、この施策に対して如何に支援していくかを表明して応えました。
アフガニスタンの政治と治安の安定を考えていく上では、二つのことが重要です。第一は、国に法と秩序をもたらすこと。第二は、人々を貧困から抜け出させる術を見つけることです。アフガニスタン政府と国際社会の応答はこの二点を中心に行われたとも言えます。日本もそれぞれに日本の考えをもって応えました。
第一の国に法と秩序をもたらすことについては、武器は政府の軍隊と警察のみが持ち、民族間、部族間、政治的党派間の争いは全て法に則って解決されるようにしなければなりません。そのために国軍建設、警察再建、司法改革を進め、地方に割拠する軍閥を解体する目的の武器回収・除隊・市民社会への復帰、つまりDDRを断行する必要があります。この二年間で国軍建設、警察再建は成果を出してきましたが、軍閥は依然として地方で私兵を飼い勢力を保っていて、兵数及び重火器を含む武器の数から言ってまだ劣勢です。ベルリン会議前にカルザイ大統領は、6月末までの100%の重火器集中管理及び40%の軍閥兵士の除隊を発表しました。軍閥兵士の除隊は、9月の選挙までに更に20%増やし、60%ととすることになっています。しかし、この兵士除隊がまだ始まっていません。今回の兵士除隊の計画には部隊の解散も含まれていて、軍閥やそれを支える司令官達が、抵抗しているのです。抵抗の理由は、除隊後の将来、つまり社会復帰の実際が見えないこと、対抗勢力との関係で均衡のとれた部隊解散等となっていないこと、未だタリバーン残存勢力がテロ活動を行っていることなど、様々です。今アフガニスタンで行われているDDRは強制力を持って行うものではありませんので、軍閥や司令官に対してカルザイ政権と国際社会による粘り強い説得が必要です。日本は、DDRの主導国として、この説得に協力しています。説得の材料は、司令官と兵士それぞれの社会復帰プログラムです。道路工事、学校建設、灌漑工事などを行い緊急雇用と職業訓練を同時に実施するプロジェクトを世界銀行及びアジア開発銀行の日本基金や草の根無償基金を使っていくつも用意しました。また、JICAによる職業訓練、JICAとDDRの実施機関ANBPとの協力による司令官起業支援プログラムも現実のものとなろうとしています。説得は、今は大統領と副大統領以下の閣僚を通じて行っていますが、そろそろ直接日本を始めとする国際社会が司令官達に働きかける必要があるでしょう。いや実際には、駒野大使による軍閥への直接的働きかけは始まっています。
貧困は、単純化すれば、テロリスト支援と芥子栽培の源です。生活が政府や地域社会から守られず、苦しい思いをするから人々は、現金をもたらすテロリスト(オサマ・ビンラーデンは金を賞金にしているようですが)や麻薬業者、更には軍閥・司令官に従うのです。貧困は、首都よりはむしろ地方都市に、都市よりはむしろ農村・牧畜地帯に存在します。貧困を克服していくためには、地方の村々に生きる人々個々の「人間の安全保障」に着目しつつ、地方の総合開発が必要です。このためには、医療、教育、飲料水の整備から始まって、生産力と雇用の増大を計らねばなりません。これまで、アフガニスタン政府は、国家緊急雇用プログラムや国家連帯プログラムなどを実施することによって、これらの問題に対応しようとしてきました。言うなれば、国民に対する上からの支援です。しかし国家プログラムは実施に至るまで時間がかかる。国の実施能力もつける必要がある。これに対し、国連機関や日本は、緒方イニシアティブ、JICA緊急復旧プログラム、幹線道路復旧工事、草の根無償資金協力などを活用して、下からの支援を政府の支援に先駆けて行ってきました。このような努力は、日本を含む国際NGOや欧米の援助機関によっても行われてきています。更には、アフガニスタン政府は、各国と協力して国家安定化プログラムを立案実施し、県・郡レベルの国民支援能力強化を図っています。これには、全国に展開し始めた連合軍やNATOによる地方復興チームも協力しています。
このような中で、分かってきたことは、医療・教育・飲料水など人間生活上の基礎的需要の整備から、村人個々が将来に希望を持って自らの暮らしをたてていくための計画と施策が必要になってきていると言うことです。このためには、まずインフラ整備が重要です。幹線道路は順調に整備されてきています。これに加え、二次、三次道路や電力及び灌漑の整備が次のターゲットです。インフラの整備と同時に進めなければならないのは、産業開発です。アフガニスタンは農業国です。農業を基盤とした産業開発が最も手っ取り早い。農産物の生産拡大及び品質向上、集散施設の設立・拡充、運輸業の拡大、農産加工業の設立・開発など、法環境を整備し、システム作りや技術提供などで支援していけば発展もし易いはずです。日本は、このことの重要性を2002年秋の支援国会議会議以来唱えてきましたが、ベルリン会議及びADFを通じて、アフガニスタン政府側が自らのイニシアティブで国家農業開発計画を策定し農業を基盤とした発展を追求することを表明しました。ADFでは、駒野大使やこの度アフガニスタン支援調整大使に就任した本村大使が、アフガン要人との個別会談のため席を立ったので、私が代わりに、アフガニスタン政府の考え方への日本の支持を表明しました。日本としても今後アフガニスタン政府と協議しながら具体的な支援方法を考えていかなければなりません。
大統領と議会の選挙は9月に行うと発表されました。これが、二年半前ボンで合意された約束の最終コーナーです。この選挙の結果生まれる正式政府と国家体制が安定的に国造りに邁進できるようにするために、上記二つのことを着実且つ確実に行っていく必要があるはずです。
2004年5月7日
在アフガニスタン日本大使館・宮原信孝
- by Miyahara
- at 21:18
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