2008年04月06日

杜若(Kakitsubata)No.6(2008年4月号)

杜若No.6(2008年4月号)
TOPICS

ホットけない世界の問題:「中東和平問題と日本の貢献」
九州から世界を:「九州企業はアブダビ・ドバイのパートナーになれるか?」    
コラム:「中東は安全ですか?」
世界の国から:ドバイ、ヨルダン、パレスチナ、アブダビ
お知らせ:久留米日米協会、六ツ門大学、九州筑紫の「人間の安全保障」シンポジウム
編集後記(阿久根加奈子)

ホットけない世界の問題:「中東和平問題と日本の貢献」

 この3月、世界がチベットでの暴動、中国の人権抑圧問題、北京オリンピック・ボイコット問題に注目、沸き立つ中、久留米大学の教員・学生とともにイスラエル・パレスチナ自治区を訪問した。出発前には、一方でイスラエルの生存権を認めないハマスが支配するガザへのイスラエルの攻撃が行われ、他方でパレスチナ人による西エルサレム・ユダヤ教神学校学生殺傷事件が起こっていた。私たちが、現地に入ってからも、イスラエル軍特殊部隊がベツレヘムのパレスチナ人4人を暗殺する事件が起こった。
 1993年にイスラエルとPLO間の歴史的和解オスロ合意が結ばれて15年がたった今、表舞台では、2国家解決(アラブ側はイスラエルの生存権を認め、同時にパレスチナ国家が実現するという解決法)が枠組みとなり、和平交渉は続けられている。だが、現地で進行しているのは、殺し合いの現実だ。
 現地で進行しているのは、殺し合いだけではない。暫定自治の名の下に、パレスチナ人は、イスラエルが建てた壁の中、或いは堀の中に閉じ込められ(その中では治安も行政もパレスチナ自治政府が権限をもつ)、水資源、壁の外での行動の制限をイスラエルより受ける(パレスチナ自治区に指定されてもほぼイスラエルが治安と行政の権限をもつ)。1993年以前、西岸・ガザに住むパレスチナ人は少なくともイスラエル本土に働きに行くことができた。運転手も一々チェックを受けることなく観光客を乗せてイスラエル本土を走ることができた。
 このような中、私たちは、ジェリコにおける国際協力機構(JICA)の対パレスチナ支援活動を視察した。この地に赴任して6年になる成瀬所長は、パレスチナやヨルダンの社会・経済開発とそれへの支援が、イスラエル・パレスチナ間、或いはイスラエル・アラブ間の協力関係構築にどのように貢献するかを熱く語った。
 環境や社会・経済開発における協力関係の構築が憎しみあった上記両者の信頼醸成に役立ち、和平交渉のより良い環境をつくっていくという考え方と方針は、1992年、日本が初めて中東和平多国間協議に参加したときの方針であった。その方針の下、日本は環境と観光の地域協力作りとこれらへの支援やパレスチナ自治支援を実施することにした。
 15年経って、その方針と施策がJICAによってごみ処理場建設や農業開発プロジェクトとして現実のものになっていた。今は、「平和と繁栄の回廊」構想という枠組みの中で、これらの協力が進められてる。これももう1つの現実だ。
 憎しみ合いと殺し合い、一方の当事者による他方の当事者の支配、遅々として進まない和平交渉。これらの現実と並んで存在する日本の協力関係作り。後者が前者の現実を少しでも改善したか、といわれれば、「ノー」といわざるを得ないかもしれない。JICAの協力が実を結び始めたのもこの3年ほどのこで、それ以前せっかく支援で作られた病院や学校などが破壊されたように、政治情勢の変化でJICA支援が停止され、作られたものが破壊されるかもしれない。しかし、象徴的に言うが、「成瀬」という人物がパレスチナ、イスラエル間を奔走し、ごみ処理施設を機能させ、母子健康手帳を住民の間に広め、農業改善事業を行なった、という事実とそれらにより人々が益を得たという事実は、現地の記憶に残るはずだ。それは小さく言えば、日本の評判を高めることになり、大きく言えば停止や破壊の後の新たな取組みの際の礎となる。
 中東和平は、チベットの人権問題やコソボの独立などと同じような世界の注目を集める問題であるだけではない。中東和平が実現しなければ中東地域の安定は得られないという問題である。中東にエネルギー源が偏在している以上、それは、世界の安定を揺るがす問題である。そのような問題に体を張って、日本的なやり方で取り組んでいる日本人がいることに久々に感動を覚えた。

九州から世界を:「九州企業はアブダビ・ドバイのパートナーになれるか?」    
 
 先月号「世界の問題 ここに注目!」で、ドバイの活況とその理由と思われるもの、およびアブダビの自国産業化へ向けての意欲を紹介した。この3月、ドバイ、アブダビを訪ねて見て、その活況と発展を目の当たりにした。結論から言えば、現代世界において注目すべき事象として挙げたのは正しかった。
 現在、米国のサブ・プライム・ローン問題が世界経済に暗雲をもたらしているが、同問題で苦境に陥った米国最大手の銀行、シティ・バンクに対し75億ドルを拠出して同銀行を救ったのは、アブダビ投資庁だった。アブダビ投資庁は8000億ドルから1兆ドルの資産を持つといわれ、米国国債を買い、米国企業・銀行に大規模に投資している。この投資を守るためにシティ・バンクを破産から救った、ともいわれるが、資産規模からすれば、75億ドルなどという資金はたいしたことはないのであろう。
 アブダビは、ドバイを真似て今、収入源の多様化に本腰を入れだした。アブダビの自国発展戦略は、その資金力を生かし、従来のように世界経済に資すること、自国の工業化を図ること、ポスト化石燃料時代に備えて自ら省エネを推進し代替エネルギーを開発すること、の3つに集約される。更に、その基礎となるのは、外国で学んだ優秀な部族出身者を実務のトップに据え(その上には王族を戴く)、優秀な人材を自国・外国を問わず集め、その才能をフルに生かさせる人的体制である。
 これらを動かす精神は、事業家としてのパートナーシップだ。アブダビの事業家は、資産と事業家マインドに基づくリーダーシップを提供する。そこで雇われたテクノクラートは、マネッジメントを含む技術やその他能力で事業目的のために働く。しかし、それだけでは足りない。アブダビが求める世界最新技術の工業地帯、世界最新の新エネルギー・省エネ技術は、それら技術を持つ組織・システムとして存在するからだ。
 福岡県久留米市に本社を置く三和システム株式会社は、このようなアブダビのパートナーとなるべく活動を始めた。同社がもつ、省エネ技術は、アブダビの新エネルギー会社技術者の目にも世界最高水準と映った。技術は最高。あと必要なものは、パートナーシップだ。
 アブダビの事業主は、エンジニアリング・システムであろうと技術そのものであれば、豊富な資金力にものを言わせて買うことができる。カネで買えないパートナーシップをもっていることを同社がアブダビ側に示すことができるか。そのためには、アブダビに事務所をもち、アブダビの真の願いは何かを知り、組織としてアブダビ側の目標にどのように、どれだけ貢献できるかを相手方、つまりアブダビ側の事業主に理解させなければならない。
 これからやるべきことはまだ数多くある。しかし、もしアブダビ側に認められ、パートナーとなれば、ドバイを始めとして活況を呈する世界の国々から事業の申し込みが押し寄せるであろう。そうなれば久留米発の第二の世界企業だ。このやるべきことに力をいれ、邁進する価値はある。

コラム:「中東は安全ですか?」 

 中東は、政情不安定で紛争やテロが頻繁に起こり危ない、そうだ。今回久留米大学の学生を連れてヨルダン、パレスチナ、イスラエルに研修旅行に出かけたが、多くの方から大丈夫ですか、と尋ねられた。
 私自身もヨルダンは、7年ぶり、イスラエル・パレスチナに至っては11年ぶりの訪問となる。この間の現地情勢の変化は大きい。学生を連れていくということもあり、事前にはかなり気を遣って準備した。幸いなことに、パレスチナ自治区・ジェリコではJICAがJICA活動視察ということで我々を全面的にケアしてくれることになり、かつエルサレムではUNDPが連絡先を引受け最新の情報も提供してくれたので、この研修旅行を決行した。
 「百聞は一見に如かず。」現地に赴くことで、治安情勢の見方が明確になった。単純化していえば、この地、イスラエル・パレスチナにおいて外国人は、観光客になりきれば安全である。本当に危ないところは、観光客は行けない。たとえばガザ地区である。
 ベツレヘムを訪問した日は、イスラエル軍特殊部隊に4人のパレスチナ戦士が同地で暗殺された2日後であった。聖生誕教会(イエスが生まれた場所跡に建てられた教会)に面する市役所前広場では、追悼集会が行われているのだが、その横を大勢の観光客が同教会へと入っていく。イスラエル、パレスチナ双方にとって観光は大事な収入源でそれを邪魔する手はない。
 治安への評価は、誰が何のために誰ないし何に危害を加えようとしているのか、それへの有効な対策は何なのかが、どれだけ明らかになっているかで行われるべきである。殺人犯の出没を警察が警戒していたにもかかわらず、全く不条理な死や怪我を受けた人たちが8人もでる日本は、治安不安の原因と対策が明確なイスラエル・パレスチナに比べれば、危ない場所である。少なくとも外国からの日本への渡航情報は、「駅やショッピング街などで突然のテロに襲われる可能性があり、できるだけ近づかないようにして下さい。やむを得ず出かけなければならない時は、周囲に気を配り不審者がいないのを確認して足早に通り抜けることをお勧めします。」ということになろう。

世界の国から

○知名定一「喜作」料理長:
 日本料理とインド料理や中華料理のフュージョン料理を作れといわれれば作ることはできる。しかし、本場のインド料理店も中華料理店も街のあちこちに存在する中東の国の日本料理店が、インド料理風や中華料理風を出しても、本物のインド料理や中華料理の店に勝てるはずはない。丁度、日本で中華料理店やインド料理店が日本料理風の料理を出しても客足が遠のくのと同じである。(3/9)
○サアド運転手(ヨルダン):
 ヨルダンの治安がよいのは、平和で安全な国でなければ観光を始めとした生活を支える産業が立ち行かなくなることを知っているからである。(3/10)
○ラドワーン運転手(パレスチナ):
 (皮肉に笑いながら)イスラエルの仕打ちも捨てたものではない。お陰で耐えて、耐えて、耐えることを学んだ。(3/13)
○アル・ザーヘリADBICアルミニウム担当上級副社長のメイル:
 お会いできたのは私の喜びでした。あなたの方からの要望でも支援でもいつでも歓迎です。(3/22)

お知らせ

○モデスト市長一行久留米来訪:
 久留米市の姉妹都市米国カリフォルニア州モデスト市の市長一行が4月中旬久留米市に来訪します。久留米日米協会では、16日18:00より、「創世」において同一行の歓迎会を行います。是非ご参加ください。会費、一般3000円、学生無料。
○街角キャンパス「六ツ門大学」賛助会員募集:
 街角キャンパス「六ツ門大学」では、一口1万円で賛助会員を募集しています。「六ツ門大学」の充実・発展のため杜若企画実行委員会も全面的に協力予定です。是非賛助会員にご応募ください。
○シリーズ・シンポジウム「21世紀九州における人間の安全保障」の開催:
 九州筑紫21世紀研究会は、4月から始まる平成20年度の1年間、「六ツ門大学」において、シリーズで「21世紀九州における人間の安全保障」シンポジウムを開催します。テーマは、「人間の安全保障とは?=緒方貞子JICA理事長元補佐官に聞く」「教育と人間の安全保障=子育てまちづくりの実践」「地域経済を安定させる=久留米発世界市場に挑戦」「医療と人間の安全保障=新型インフルエンザに現システムは対応できるか」です。是非ご参加ください。
*以上問い合わせ先:宮原信孝(携帯080-5284-3720、Email:abuakiranyes@aol.com)

編集後記

イスラエルが作った壁の写真を見て、思わずベルリンの「壁」を思い出した。理由は異なったとしても作られてしまった壁…この壁の崩壊は多くの人々の自由と平和をもたらしてくれるだろう。約20年前の壁崩壊の感動が再び起こることを祈る。 
阿久根 佳奈子

発行者:宮原信孝
 九州筑紫21世紀研究会代表世話人
 「フィリピンで英語を学ぼう!」企画実行委員会代表
 連絡先:久留米大学文学部宮原信孝研究室
     839-0851久留米市御井町1635
     TEL:0942-43-4411 FAX:0942-43-4797
     Email:abuakiranyes@aol.com
 ブログ:miyaharanobutaka.com

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